お客様のビジネスをいかに実現していくかを共に考える―AWSのソリューションアーキテクトが担う仕事とは

業種を問わず、スタートアップからエンタープライズまでのあらゆる企業へクラウドサービスによる価値を提供するアマゾン ウェブ サービス(AWS)。AWSでは、AWSのサービスの価値を顧客に伝え、ビジネスの課題を解決に導くための「ソリューションアーキテクト(SA)」というポジションが存在します。

今回は、デジタルネイティブ担当のSAとして働く成尾さんにインタビュー。SAとはどのような役割を担う仕事なのか、そしてその経験を活かしたどのようなキャリアパスの可能性があるのかなど、大手Webベンチャー出身である成尾さんの経歴を踏まえてお話を伺いました。

■成尾 文秀

Webシステムの自社開発や受託を行う複数の会社にてネットワーク、インフラからアプリケーション開発まで幅広く従事。前職では低レイテンシかつ無停止が求められるアドテク領域にて、複数プロダクトのインフラの構築・運用やマネジメントをしていました。AWS入社後は、ソリューションアーキテクト(SA)としてアーキテクチャー提案などお客様のビジネスを支援しています。

お客様の開発チームの一員となり、ディスカッションしていく

ーーまず最初に、ソリューションアーキテクト(SA)という職種の仕事内容やミッションについて教えてください。

私たちは、AWSを始めとするAmazonのソリューションを駆使して、いかにお客様のビジネスを実現していくかを共に考える、という役割を担っています。

お客様のビジネスの先にいるお客様のことまで含めて考えて、開発チームの一員だと思っていただけるくらい、お互いにディスカッションをしながら、AWSの数あるサービスや場合によってはAWS以外のソリューションも組み合わせつつアーキテクチャーの提案や改善のサポートをしています。

ーー成尾さんが所属されているデジタルネイティブのチームでは、どういったお客様を担当されているのでしょうか?

デジタルネイティブのチームは、いわゆるWeb系のお客様が中心になっています。
メディアやゲームなどコングロマリットな業態で使う技術領域が広いだけでなく、エンジニアの技術力も高く、新しい技術もいち早く取り入れながら事業アイディアをスピーディに実現していくお客様です。

ーーディスカッションする相手は、主にどういった方になるのでしょうか?

サービスを作られている開発チームの方々ですね、特にエンジニアリーダーやインフラの方が多いです。

ーーお話いただいた主な業務以外にも、SAとしての業務があれば教えてください。

新しく開発されるサービスだけでなく、既存サービスにおけるシステムの改善やコストダウン、機能拡張、マイグレーションのサポートや、ケースバイケースではありますが、お客様のご要望に合わせてイメージができるよう な簡単なモックを作って提供することもあります。

また、AWSは非常にサービス数もアップデートも多いため、勉強会やハンズオンを通してより深く理解しご活用いただけるよう支援や、AWSが主催する各種イベントでの登壇を通して、AWSご利用の皆様に広くサービス、ソリューションの紹介をしています。

それから、お客様の課題に対してサービスを紹介する際に、「こういった機能が欲しい」といったご要望をいただくことがあります。そういったお客様の声を、サービスチームと呼ばれる開発・運用しているチームにフィードバックして、継続的にサービス改善、AWSのイノベーションを加速していくという業務もあります。

短期的な売り上げにとらわれないことを重視した社内評価

ーー成尾さんは現在、何社くらいのお客様をご担当されているのでしょうか?

私が今担当しているのは、2社ですね。デジタルネイティブのチームでは、2~3社を担当している人が多いです。少なく感じられるかもしれませんが、Web系企業様は幅広い分野でたくさんのシステムを開発、運用されているので、そうしたシステム数も考慮した上でしっかりサポートできる範囲で数を決めています。

ーーSAの業務内容は多岐に渡ると思うのですが、社内ではどういった基準で評価されるのでしょうか?

社内の評価に関して、1つはKPIがあります。
これはグローバルで共通のものとチーム内で決めているものがあり、クオーターごとにSAとしてどのような活動を行ったか、KPIの達成率なども振り返りを行っています。

また、しっかりとお客様のサービスを考えて支援がきているかも重要視しています。
一例ですが、サービスの一部システム構成を変えることによって大幅にコストダウンできるケースも結構あったりします。長く運用している古いインスタンスタイプを新しいものに変更すると、同一コストでもパフォーマンスが上がることにより台数の削減、リザーブドインスタンスやスポットインスタンスの利用、アーキテクチャーの変更によるコストダウンなどです。このようなコストダウンは短期的にAWS視点で見れば売上げが落ちる事になりますが、お客様視点で運用していく事を考えると嬉しい事です。しっかりと中長期的な目線でお客様のサービスがより安定稼働するための支援ができているか、という点が評価されるというのは大きな特徴だと思います。

ーー今までの仕事の中で、特にやりがいを感じた事例などがあれば教えてください。

お客様の中でも初挑戦となる領域や新しいサービスを立ち上げようとされる際に、ディスカッションを繰り返しながら徐々に形になって、ローンチして安定稼働している時はやりがいを感じます。
また、既存サービスであっても、お客様の中で長年解決できていなかった課題に対してディスカッションしていく中で解決の糸口が見つかり最終的に解決まで導くことができたときも嬉しいです。

大手Webベンチャー企業からAWSへ転職した理由

ーー成尾さんがAWSに入社されるまでの、主なご経歴を教えてください。

AWSに入る前はWeb系の企業を転々としているのですが、古くはWebの受託開発やインフラ構築、前職では丸7年ほどおりまして、最初はゲームの事業部でインフラやアプリケーション開発、テックリードとしての経験を積み、その後のアドテクの事業部ではインフラ横断組織内の1チームを率いてマネジメントしつつ、実際に手を動かすプレイングマネージャーを経験しました。

ーー前職では、AWSを利用する側だったのでしょうか?

そうですね。AWSのみではなく複数のクラウド事業者のサービスや、オンプレミスの環境がありました。

ーーAWSへの転職を決めた際、 AWSのどういったところに魅力を感じられましたか?

クラウドが日々進化しサービス数がどんどん増えていく中でも、AWSはとても安定した運用をしているなという印象がありました。

前職のオンプレミス環境では、ベアメタルだけでなくプライベートクラウドの環境もあったのですが、その上での構築・管理・運用する大変さや、クラウドそのものを安定してサービス運用させる難しさを感じていました。
世界中で多くのユーザーが使っていてサービス数も多いAWSは、どのようにして安定した運用を行っているのかというところにすごく興味を惹かれまして、AWSに入社しました。

ーーAWSの中でも、ソリューションアーキテクトという職種を選ばれた理由を教えてください。

前職でもサービスを作る際のアーキテクティングなど近いことをやっていたので、これまでの経験も活かしながら広くいろいろなサービスに関わる事ができたらと考えて選びました。

ーー過去の経験が、現在の仕事でどのように活かされていると感じますか?

やはり一番大きいのは、「こういう事がやりたい」という要望やシステムの要件に対して、どういった組み合わせで実現できるかを過去の経験を元にイメージしていけるところです。

また、「このシステムであれば先を見据えてこのポイントは考えておかないといけない」とか、そういったシステムの勘どころのような部分に過去の運用経験が活きているなと思います。

ーー成尾さんのようなご経歴の方が、SAとしてのキャリアを選択するということについて、ご自身の経験を踏まえてどのように感じられますか?

エンジニアは、「自分でモノを作りたい」という方が多いですよね。
SAになると実際に手を動かすことが減り、自分でモノを作れなくなってしまうとか、エンジニアとして遅れをとってしまうのではないかとか、そういった懸念からSAというロールを避けてしまうケースもあると思っています。

でも実際にSAとして働いてみると、開発する上での気付きも多く、その経験は将来エンジニアとして開発をする上でも必ず活きてくると思います。エンジニアとして開発のキャリアを考えている方でも、一度SAを経験してみてはどうでしょうか。

ーーAWSに入社されて、これまでのご経験とはまた違った部分もあると思うのですが、どのようにキャッチアップされているのでしょうか?

サービス数も多く、私がこれまでの経験上使ったことがないサービスも多々ありますし、機能の更新や新サービスも続々と増えていっています。

キャッチアップをどのようにしているかというと、社内で他のSAが作ったさまざまな資料や動画を探せる場所がありまして、そういったものを活用しながら調べていく方法が、まず1つですね。

どうしても資料や調べても解決できない場合は、社内でサービスごとに相談できる場所があるのでそこで相談して進めています。主にこの2つを使ってキャッチアップしています。

行動指針「OLP」が深く根付いたAWSのカルチャー

ーー実際に入社されてから、転職する前のイメージとギャップを感じた部分などはありましたか?

AWSには「Our Leadership Principles(OLP)」と呼ばれる行動指針があるのですが、社内の方々が常にそれを意識していると感じ取れるシーンが多々あって、その事に一番驚きました。

普段の会話の中でも、「これOLP満たしている?」といった言葉が出てきますし、評価の際にもOLPが使われています。OLPという行動指針自体が、すごくカルチャーとして根付いているなと感じますね。

(世界中のどのオフィスにもOLPに関する装飾が多く存在する)
Amazon には世界で共通の “Our Leadership Principles” という 14 項目からなる信条があります。 それは、チームを持つマネージャーであるかどうかにかかわらず、Amazon では、全員がリーダーであるという考え方のもとで、社員一人ひとりが、全ての日々の活動において、常にこの “Our Leadership Principles” に従って行動するよう心がけています。

ーーまわりで働く同僚の方や働く環境について感じることはありますか?

経験豊富な方が多いです。そして何よりお客様のことを本気で考えて行動しているメンバーが多いと感じています。それに加えて心理的安全性が保たれていて、すごく意見を出しやすい環境にあります。

誰でも意見を言いやすいよう働きかけもありますし、言ったことに対して批判されることもなく、お互いに意見やアドバイスを言い合えるのは良いですね。

ーーAWSに転職されて、どういったところに満足していますか?

様々なお客様のサービスに関わっていけることは、これまでの経験を活かすだけでなく、新しいサービスや機能のキャッチアップも必要ですが、やりがいがありますし、お客様から喜びの声をいただくと嬉しいですね!

個人的に一番満足しているのは、一緒に働いているメンバーです。
アーキテクチャーに100%の正解はなく、意見が分かれる事もあるのですが、その意見の元をたどっていくと実はアプローチが違っているだけで、「お客様のシステムを良くするためにどうしたらいいか」という視点はぶれてなくて、同じゴールを思い描きながら、同じ指針を持って行動しているメンバーがいるというのは、すごく良いところだなと思っています。

ーーAWSならではのグローバルな面で、面白さを感じる部分があれば教えてください。

AWSのサービスを開発・運用しているサービスチームのメンバーに対しても社内のチャットツールやメーリングリストなどでコミュニケーションを取ることができるようになっていますし、集まって技術交流をする機会もあったりします。

SAの業務の1つで、お客様の声をサービスチームにフィードバックして、継続的にサービス改善、AWSのイノベーションを加速していく業務があると言いましたが、時にはサービスチームとお客様とのディスカッションの機会を設けて、お客様の悩まれている背景や機能の必要性を伝えて実際に実装してもらえた時は、グローバルとの関わりの中でやりがいを感じる部分の1つでもあります。

ーー外資系企業だと自分のミッションだけをこなしていくドライな社風がイメージされることも多いですが、AWSではいかがですか?

私もこれまで外資系企業での勤務経験はなく、入るまでどんなところだろうと不安もあったのですが、みんなすごく優しくてアドバイスをくれますし、ドライという感じは全くしなかったですね。
もしドライな印象を持たれている方がいるとしたら、そんな事は一切ないので安心してください。

ーーOLPの14項目の中で、成尾さんが特に好きだと思う内容があれば教えてください。

やはり最初の項目、「Customer Obsession」がすごくいいなと思っています。

冒頭でお話したように、単なるアドバイザーとしてではなく、お客さまの開発チームの一員と思ってもらえるくらい真剣に考えて提案ができているかは重要だと考えているので、「何よりもお客様を中心に考えることにこだわります」というこの項目は、外資なのにどこか日本らしさも感じて好きですね。

豊富な選択肢を持つ社内におけるキャリアパス

ーー続いて、社内でのキャリアパスについてお伺いしたいと思います。例えば、SAから本国の開発エンジニアになるなど、そういった異動ができる可能性はあるのでしょうか?

はい、あります。私たちは社内にどういったチームがあり、どのようなメンバーを募集しているかを見ることができるので、それを見て行きたいチームがあればリクエストを出してOKが出れば異動することができます。

――成尾さんご自身が、AWSの中でどういったキャリアパスを思い描かれているか教えていただけますか?

私は入社して2年ほどで、まだSAという仕事のすべてを把握できているわけでもありません。次のキャリアパスとしては、ゆくゆくはスペシャリストなどのロールも視野に入れていきたいと考えていますが、まずは目の前のことをしっかりと、SAとして結果を残すことを第一の目標としています。

ーーSAの次のキャリアパスとしては、例えばどういった選択肢があるのでしょうか。

SAには、お客様に近いところでサポートをする私のようなロールだけではなく、特定のサービスに深い専門性を持ったスペシャリストSAというロールがあり、より特定の領域を極めたい方にはそういった道もあります。またサービスチームのエンジニアとしてのロールや、デベロッパーアドボケイトなどキャリアパスは豊富ですし、社内でそういったキャリアチェンジをされる方はたくさんいます。

amazon jobs というサイトを見てもらえば、一般にも募集しているロールについては見ることができるので気になる方は参考までに見てみてください。

ーーFindyのサービス上では、OSS活動を評価してスキルを可視化しているのですが、OSS活動をされている方の活躍の可能性としてはいかがでしょうか?

社内でもOSSとして作成したものを公開している人はいますね、AWS全体で見るとOSS公開やコントリビュートしているものはいくつもありますし、githubのawslabsで公開しているものもたくさんあります。

そういったところに携わっていくという道もあるかもしれませんし
OSS活動をされている方は特定のサービスに対して深い知識をもっている方が多いので、スペシャリストSAとして活躍いただくというのもあるかなと思います。

お客様とのディスカッションを中心にスケジュール

ーー働き方の面についてもお話を伺いたいと思うのですが、主に普段どういったスケジュールで働かれているのでしょうか。

基本的に社内でのミーティングは週1にまとめているチームが多いように思います。私のチームでは月曜日にまとめて行うことが多いです。それ以外の曜日に関しては、お客様とのディスカッションに時間を割いたり、その準備、例えば勉強会の資料を作成したり、新しいサービスをキャッチアップしたり、ご質問頂いていた内容を検証したりといったことに充てていることが多いですね。

これまでは、お客様のもとへ訪問することが多く、オフィスアワーという形で週に1日~半日ほど常駐してディスカッションや質問を受け付けたりしていました。現在はすべてオンラインに切り替わっているので、リクエストがあればすぐにオンラインミーティングを実施するなど、柔軟に対応しています。

ーー体調不良や家庭の事情などがあった場合にも、柔軟な働き方ができますか?

体調不良や突発的な事は誰しも起こり得るので、チームメンバーに状況を伝えて誰かが代わりに受けたり、どうしてもスケジュール上厳しい場合にはお客様と予定の調整をするなど柔軟に対応しています。奥様のご出産に合わせて育休を取るといったケースもよくありますね。

SAとしての経験が、キャリアパスの幅に繋がる

――それでは最後に、どういったエンジニアの方に来て欲しいと考えているか、メッセージをいただけますか?

AWSでは、いろいろな企業のお客様のビジネスに関わる事ができます、自分がこれまで経験したことがないようなシステムに携わる機会も多くあります。過去の知見や新しくキャッチアップしながら、一緒にお客様のビジネスを考えていきたいと思える方にぜひ来ていただきたいですね。

いま開発エンジニアとしてのキャリアパスを考えている方であっても、ソリューションアーキテクトを経験することによって開発エンジニアとしての幅も広がると思います。社内には界隈で名前が挙がるような、すごく知識レベルの高い方々もいますし、そういった人たちとの深いディスカッションも活かしながら、お客様のビジネスを支えるソリューションを手助けすることができるので、ぜひ興味を持っていただけたらと思います。