レシピ動画サービス「kurashiru(クラシル)」を開発・運営するdely株式会社。2016年5月にローンチされた「kurashiru」は、現在では月間1億7000万回以上再生される日本最大級のレシピ動画サービスに成長しています。
急成長を遂げるdelyの事業戦略や、それを実現するためのエンジニア組織の考え方などについて、CTOの大竹雅登さんにお話を伺いました。
―まずは、「70億人に1日3回の幸せを届ける」というミッションができた背景から教えてください。
現在運営している「kurashiru」に限らず、僕らが会社としてどんなサービスやプロダクトを展開していくかを考える時に、まずは生活に密着したところをやりたいというのが1点。そして、それを大きな規模でやりたいというのがあります。
生活に密着したサービスというのは、「食」の領域はもちろんですが、それ以外にもたくさんあると考えていて、“1日3回”くらいユーザーが使いたくなるようなサービスをつくりたいという意味が含まれています。
“70億人”というのは、文字どおり世界の人口をイメージしていて、ITのサービスでいいプロダクトを作れば、日本なら1億人、世界だったら70億人に届く。そういった大きな規模でサービスをやりたいという考えを表しています。
―最初から世界の70億人をターゲットにされたことには、どんな背景があるのでしょうか?
シンプルに日本国内だけでは限界があるし、日本以外でも価値を発揮できるようなプロダクトでなければ、面白くないしワクワクしないなと。やるのであれば、世界を目指したいというのがありますね。
―delyの事業戦略として考えていること、3年後や5年後に想定していることを教えてください。
まずはレシピ動画や食の事業では圧倒的1位を取る、ということですね。事業として伸びなければ絶対に影響力は出ないので、それは大前提としてあります。その上でブランドを作っていくことを強く意識していて、価値観を提案するというのが一番やりたいことです。なので、機械的に情報を提供するサービスではなく、価値観を提案するということを軸にやっていきたいと考えています。
「kurashiru」も今はツールとしての役割が強いですが、ITに限らずリアルなプロダクトだったり、「食」以外の領域だったりを含めて、ブランドとしてもどんどん育てていきたいというのが、3年後5年後を見据えて考えているところですね。
―「食」以外の領域についても、広く視野に入れているということですね。
はい、広くやっていきます。僕らは今「kurashiru」を運営していますが、食やレシピのサービスだけの会社になるつもりはありません。「食」以外にも、人の生活の中で満たされていない部分はたくさんあると思っていて、ライフスタイル全般の課題を解決するサービスを展開していくことを考えています。
大量消費の社会になった今、より一人ひとりの価値を感じる尺度が変わってきているタイミングだと考えていて、その中で金銭以外のもので幸福度を上げるようなサービスをつくりたいというのが、僕らの一番イメージしているところです。例えば、レストランで何万円もする高級食材の料理を食べるのもいいけど、自分で作って食べる食事にもそれと匹敵するくらいの幸福度があったりする。「食」以外にも、そういった金銭以外で幸福度を上げるツールはたくさんあると思っているんです。
僕たちのイメージするロールモデルというか、憧れに近いのが「無印良品」ですね。今の無印良品は、「自然と。無名で。シンプルに。地球大」というスローガンのもとシンプルだけど高品質で自分なりの最適なものを、というブランディングをしていますが、彼らのように生活に密着したレベルで上質なものをつくっていくことは、人の生活を一番支えることができると思っています。
無印良品は文房具などがメインだったところから、今では洋服や食品にも展開していて、そうやって価値観をいろいろなプロダクトに反映していく、というやり方も面白いなと思っていますね。
―そういった事業戦略を実現していくにあたって、エンジニア組織はどういった役割を担っていくと考えていますか?
今の世界の動きを考えた時にテクノロジーがないと、大きな規模で世の中を変えることができないと前提として思っていて、僕らがやりたいこともITでなければ実現できない部分があるし、テクノロジーが大きな競争力になっていくと思っています。さらに、テクノロジーをいかに人が受け入れやすい形で提供するかはデザインの役割で、そこも非常に重要になります。
エンジニアリングチーム、デザインチーム、コンテンツチームなどすべてを含めてプロダクトをつくるチームは事業の超コアの部分です。そこに価値がなければ立ち上がらないし、良いサービスは作れないと思っています。
チームの人数は増えていますが、社内のデータはすべてスタッフに共有しているので今でも全員がプロダクトのデータを見ていますし、データが見られる権限を付与するだけでなく、それを見てどう解釈して施策や開発のスケジュールを引いているのか、どういうプロダクトをつくっていくのかを全員で共有しています。全員が良いプロダクトを作るために何をすべきかを考えて行動することを求められる環境だと思います。
―プロダクトの方向性などについて、エンジニアがどれくらい意思決定しているのでしょうか?
どんな意思決定をするときも大前提にあるのは、良いプロダクトを長期的に作って行くために必要なことかどうかです。それはエンジニアチームでも、ビジネスサイドのメンバーでも同じです。
例えば、僕たちは企業様とのタイアップ広告を販売しているんですが、企業様の要望が今の「kurashiru」の価値観とは合わないといったこともあります。そのとき何を基準に判断するのかというと、ユーザーに長期的な価値を提供できるかどうかです。短期的に売上が上がっても、長期的に考えて価値を毀損するとか運用できなくなる可能性があればやりません。
逆に、長期的なビジョンに合ったタイアップメニューを作るとなれば、営業とエンジニアで連携して提案していく形をとります。どちらかに権限が偏っていることはなく、お互いがプロダクトとしての長期的な価値が最大化されるところを基準に一緒に考えていきます。
―「kurashiru」の開発においての、技術的なチャレンジについて教えてください。
いろいろな技術レイヤーで面白いところはあるんですが、ひとつはフロントエンドでいうと、これだけ幅広いマスに向けたサービスで、自分と年齢も性別も国も違う人に対して良いサービスをつくるとはどういうことなのか、すごく深く考える必要があるところですね。
UI的なデザイナーのスキルも必要だし、インタラクションでいうとiOS、Androidのフロントエンド的な技術も必要だし、それをバグらないようにするシステムも必要になってきます。僕らはクライアントサイドにおいて深い追求をしなければならないポジションにあるので、そういうことにチャレンジしたい人にとってはかなり面白いと思います。
バックエンドでいうと、データドリブンでやっているのでかなりデータがたまっていて、ビッグデータを扱いたい人にはとても面白いと思います。自社プロダクトで自社の基盤にデータがたまっていて、機械学習の技術を使うことができるところって、日本ではおそらく片手で数えるくらいしかないと思うんですよね。僕らはその1つに入っているんじゃないかと思っていて。
今後「kurashiru」では、個人にパーソナライズされたコンテンツの配信をやろうと考えているんです。レシピって人によって好みが違いますよね。例えば、1人暮らしの男性が見たいレシピと、家族4人の献立を毎日考える主婦が見たいレシピは違う。
その人がどんなものを過去に見ていて、滞在時間や満足がどれくらいだったから、この人にはこれを出しましょうと。もっといえば、このレシピで使った大根が余っているはずだから、それを使いきるために使えるレシピはこれだとか。そういう個人にパーソナライズされたコンテンツの配信をしたいと思っています。
たまったデータをプロダクトにフィードバックしていく時に、インフラの技術もデータ分析スキルも必要だし、それをフィードのアルゴリズムに反映するところも面白い。その過程で、機械学習で最適なものを出していくことに対する技術的なチャレンジもあると思うんですよね。実際にそういうチームを立ち上げて、これからやっていくところなので、そのあたりはとても面白いと思いますね。
インタビュー後編では、採用リーダーの新田慶秋さんを交え、開発組織のつくり方やエンジニア採用についてのお話を伺っていきます。