830万人のデータからどれだけユーザーさんの心をつかめるか。価値提供を追求するインテリアSNS開発の真髄

家の中での暮らしの可能性を広げるプラットフォーム「RoomClip」が好調だ。

これまでクローズドだった「部屋」をインターネットの力を活用して見える化した、日本最大級の「実際に⼈が⽣活している部屋の写真とデータ」が集まるソーシャルプラットフォーム。

外出⾃粛による影響からユーザー数は急増。⽉間ユーザー数は、2020年5⽉に830万⼈を突破。前年同月比で2倍以上に増加している。

提携している外部ECサイトへの送客数も前年⽐200%超と急伸。投稿された写真枚数は累計450万枚超となった。

ユーザー数が順調に拡大するなか、2020年9月2日、新規事業開発やさらなる顧客獲得を目的に、総額約10億円の資金調達を実施。累計調達額は22億円を超えた。

サービスを開発・運営するルームクリップ株式会社 執行役員 CTO 平山 知宏氏に、RoomClipが急成長している理由と見据える未来、エンジニアとして働く醍醐味を聞いた。

(プロフィール)

ルームクリップ株式会社 執行役員 CTO
平山 知宏氏

2008年東京大学工学部を卒業後、博報堂DYメディアパートナーズに入社。インターネット広告のプランニングから効果分析、可視化業務を経験。博報堂研究所研究員も兼任し、2010年に同社を退職。東京大学大学院情報理工学系研究科へ入学し、MEMSセンサーの研究を専攻。在学中の2012年からルームクリップの前身であるTunnel株式会社にジョイン。卒業後は同社のCTOとなり、ルームクリップに関わるインフラ・サーバサイド開発に加えて、 画像解析やビッグデータマイニングの領域に従事する。

「部屋は」近くて遠い。特別な存在

──今日はよろしくお願いします。まずルームクリップに参画された経緯を教えてください。

平山:
新卒で入社した会社でネット広告のプランニングや分析を経験した後、大学院でセンサリングの研究を専攻していました。その大学院に通っていた当時、大学時代の友人である代表の高重から「新しいサービスを立ち上げるから、一緒にやらないか」と声をかけてもらったことがきっかけです。

元々、当時から漠然と「社会に対して大きなインパクトを生み出したい」という思いがありました。もちろん、研究という手段で実現を目指すことも可能でしたが、何より「RoomClip」の構想に共感しました。

──大学院での研究を辞めるほど「RoomClip」に感じた魅力はどこにありましたか。

平山:
「部屋」は日常の中に常に存在するテーマなのに、なんだか近いけど遠いような感覚があって。それが逆に特別なポジショニングに感じたんです。

「部屋」という存在をより生活者にとって価値あるものにできれば、それを通じて自己実現やウェルビーイングに貢献できるんじゃないかと。

加えて、新しい価値の創出にチャレンジできる機会は人生でそう何度もあることではありません。これからベンチャーとして仕掛ける未知の可能性に対しても、魅力を感じました。

ユーザー起点で住まいのデータを民主化する

──「RoomClip」の事業についてもお伺いさせてください。

平山:
ルームクリップは”日常の創造性を応援する”をミッションに、住生活のソーシャルプラットフォーム「RoomClip」を提供しています。
国内で最も多く「実際に人が生活している部屋の写真とデータ」が集まるプラットフォームに成長しています。

「RoomClip」のイメージ画像

「RoomClip」の月間ユーザー数は830万人(2020年5月時点)、投稿された写真枚数は累計450万枚を超えています。

さまざまな生活スタイルやDIY、収納アイデアなど、住まいと暮らしにまつわる情報が相互に共有される、ユーザーコミュニティが主役のサービスです。

また、住生活産業関連企業様、例えばインテリアホームファッション、住宅設備・建材、日用品、家電、ホームセンター、飲料・食料品などに向けて、830万人が集まるユーザーコミュニティを活かし、マーケティングソリューションを提供しています。

──具体的にはどんな価値を提供しているのでしょうか。

寝たり食事をしたりするために、「部屋」を暮らしの一部として活用している人が多いと思います。全ての人に当てはまるわけではありませんが、「部屋」は暮らしの中心に位置している存在と言っても過言ではないはずです。

でも「他の人の暮らしをどれだけ知っていますか?」と聞いたらいかがでしょうか。自分以外の人の暮らしぶりは知っていても、「部屋」自体は見たことがない人がほとんどです。

──言われてみると確かにそうですね。

他の人がどのように寝床を作ったり、食事をしたり、余暇の時間を過ごしているのか、部屋の中をどう動いているのかに関して、全く情報がない。

衣食住と言われる3つの領域の中でも、衣や食に関する情報を見る機会は多いのに、なぜか住の情報を見る機会は圧倒的に少ないんです。

それゆえ自分の部屋を暮らしにフィットするものにつくりたいと考えた時に、全部独学になってしまう。でも実際部屋をつくるとなると難しいので、自分にとって最高の部屋を諦めてしまっている人は少なくないはずです。

だから私たちは、多くの人の部屋の情報を集めることで、自分にとって適した部屋、いい暮らしを発見したり、実現したりできるのが、サービスの魅力だと考えています。

また、ビジネスとして俯瞰して見ると、実は部屋の中には多くのステークホルダーの皆様の存在が見えてくるのも面白いです。

建設会社、トイレやお風呂などの住宅設備、家具、家電、日用品、化粧品、飲料食品など、多くの企業の製品により部屋での暮らしは成り立っています。

ステークホルダーそれぞれに全く違うアプローチや課題意識を持っている。そんな中、ユーザーを起点にしたデータを私たちは抱えているので、それらを活用したユーザー起点の解決ができることがビジネスとしての魅力です。

最高の「購買体験」をつくる新規ビジネス

──データの収集や活用が、今後のビジネスのポイントになりそうですね。

平山:
おっしゃる通りです。私たちの事業は10年以上続いていますが、例えば10年蓄積してきた大量のトイレの写真を見れたりするんです。その画像データを分析すれば、日本のトイレ環境の変遷や未来を紐解くことも可能です。

私たちの強みは、ライフスタイルが日々変化する中で、これらの時系列の大量なデータを抱えていること。

住宅や家具の購入や引っ越しなど、消費材と違ってライフスタイルに関わる意思決定は長期的なものが多い。結婚や出産、子育てなど、様々なライフスタイルの変化ごとになされる意思決定をサポートできるデータが「RoomClip」には凝縮されています。

これらのデータを活用する新規事業として、「RoomClip ビジネス」および「RoomClip ショッピング」を直近リリースしています。

ルームクリップでは、「人と人、人と企業が繋がる住生活の新しい産業と文化を築く。」を中期ビジョンとしていますが、このビジョンに基づく具体的な事業となります。

──具体的にはどのような事業内容になりますか。

平山:
これまでは「RoomClip」で人と人の繋がりをつくりだしてきましたが、「RoomClip ビジネス」と「RoomClip ショッピング」では企業と人のつながりをつくっていきます。

「RoomClip ビジネス」は、住生活関連企業向けの D2C クラウドサービスです。「RoomClip」に集うユーザーの行動データや属性データなどの分析から、自社や自社製品・商品へのユーザーのファン化、ユーザーとのコミュニケーションや販売促進活動、「RoomClip ショッピング」への出品管理・決済管理などが行えます。

「RoomClip ビジネス」内のショールーム画像

「RoomClip ビジネス」内 のアナリティクス画面イメージ

そして、「RoomClip ショッピング」は、住生活における大切なモノを購入できるソーシャルコマースです。ユーザー投稿による膨大な実例写真や、ユーザー同士のつながり、「RoomClip ビジネス」を利用している企業とのコミュニケーションなど、製品・商品軸でのファンコミュニティを形成することが可能です。

「RoomClip ショッピング」内のコマースページ

これらにより、ブランドや製品・商品のファンが新たなファンを生み出す、ソーシャルコマースの実現を目指しています。

──大手ECサイトとの違いをどのように生み出していきますか。

平山:
多くの購買チャネルが広がる中で、あえてeコマースの領域に踏み込むのは大きなチャレンジです。

ただあくまで私たちが大切にしているのは、購買までの一連のストーリー作りです。

例えば、すでに欲しいものが決まっている場合は、正直大手モールで購入する方が、品揃えも多く良いかもしれません。でも物質的に満たされている社会の中では、すでに欲しいものが決まっているユーザーはそう多くありません。

そのため、商品との出会い方や使用するイメージを想起させる、ストーリー作りが重要なのです。

ユーザーの投稿写真やコメントなどのデータを適切に活用して商品の魅力を伝え、そこから購買が発生する。そして、ユーザーが購入した商品をRoomClipに投稿することでさらにデータが蓄積されていく。

そういったサイクルで商品のブランド価値と消費者の購入体験が向上できたら最高のストーリーを作れると考えています。

つまり、ユーザーがブランドの体現者になる仕組みなわけです。企業側からしても、実際にユーザーの生活の中に自社の商品がどのように活用されているのかが可視化されることは、大きなメリットです。

事業視点のプロダクト開発

──エンジニア組織はどのような環境ですか。

平山:
人数としては、15人規模です。よくも悪くも、完全に整備されている組織でないですし、しっかり階層化や役割が整理されている状態ではないのが正直なところですね。

ただ裏を返すと、意欲さえあれば色々なプロジェクトやデータにアクセスできるので、不確実性を楽しめる人には刺激的な環境だと思います。

例えば、職種にしても、自分をフロントエンジニアだと決め切る必要はありません。希望すればサーバーサイドもやればインフラ、PM、デザイン、マーケティング、機械学習など、色々な分野に挑戦することが可能です。

──プロダクト開発において大切にされていることはありますか。

平山:
機能開発一つとっても、「ユーザーに対してどんな価値を提供するのか」という本質的な価値を常に考えるようにしています。「その機能は誰かの価値を毀損する可能性はある?ない?」のような議論を、深く語り合うことを組織としても大切にしているんです。

サービスが急成長する中で、昨日までは動いていたのに、急に動かなくなるようなアクシデントに直面することもあります。そんな時、組織としてどのように意思決定をするかは非常に難しい。しかし今月の売上につながるかという短期的視点だけで開発や改善に取り組んではいけない。

長期的な事業目線に立って、優先順位を決めて開発や改善に取り組んでいくことも必要です。事業全体を俯瞰してみた時に、ここだけは見逃していけない、ここを改善すれば世界が変わる、のように事業を前提に話し合う習慣がありますね。

──事業目線を養える環境ということですね。

平山:
はい。「二足のわらじ」と私たちは表現していますが、エンジニアといえどKPIを重視するような全社的なプロジェクトにも積極的にジョインしてもらえる機会は多いです。

あくまで事業の状態や未来を見据えた上で、プロダクトの開発に取り組んで欲しい。その意識を持つことで、一人ひとりが常に事業目線でサービスやプロダクト開発をする習慣は、自然に身についてくるものだと思います。

能動的に動き、自分の価値を発揮できる環境

──データを扱う醍醐味についてお聞かせください。

平山:
「RoomClip」に集まった大量の部屋のデータを分析していると、少なくとも本来定量化されていないものを、数字でなんらかの表現をしないといけない機会がたくさんあります。

人の好みなんて決してわからないし、決めつけてはいけない。あくまで推論であることを自覚していけないと思っています。
忘れてはいけないことは、高い技術やデータだけでは、お客様に優れた体験を提供することはできないということです。ただ「データで結果がわかりました」ではなく、あくまでその「データをどう使うか」が重要なのです。データは目的ではなく、手段です。

そのためには、エンジニアといえど、人間、つまりユーザーを徹底的に理解しないといけない。ユーザーを起点に技術やデータを検証する必要があるのです。

技術以外にも、社会学や哲学など色々な視点から物事の裏側を考える必要性を養う必要があるでしょう。多種多様な専門性や珍しい経験を持った人とフラットに情報交換・共有して、誰とでも建設的な議論ができる能力も大切になります。

──最後に、どのようなエンジニアを募集しているか教えてください。

平山:
まずは私たちの開発しているプロダクトに期待や共感していただける方は、とても歓迎したいです。

決してインテリアが好きである必要はありません。あくまで社会インパクトを起こすために、ビジネスとして「RoomClip」を捉えていただけると嬉しいですね。

先ほどお伝えしたとおり、能動的に動けば自分の価値をいくらでも発揮できる場所です。本人が希望さえすれば、多くの裁量を持つことも可能です。

もし、自分の実力がいまの会社の組織に反映されていないと感じている方は、ぜひ腕試しに私たちのところにきていただけると嬉しいです。成長フェーズのプロダクト開発に携わる経験は、きっとあなたのキャリアの力になるはずです。一緒に働ける日を楽しみにしています。