メンバーは0。決まっているのはリリース日だけ。エンジニア1人でスタートしてぶつかった内製化の壁からモダンな環境に至るまで

新型コロナウィルス感染症の影響により、各業界で早急なDXの推進が進む中、この状況よりも早く、エンジニア組織立ち上げに取り組む企業がありました。

試行錯誤をしながら、プロダクト内製化や社内のデジタル化を進めてきた株式会社クオカード。

株式会社クオカードの2020年3月期の決算では、2017年にリリースされた「QUOカードPay」への新規加盟企業が拡大し、地方自治体と連携したプロダクトの開発など、新たなビジネス展開が報告されています。

今の順調な状況にたどり着くまでの、開発の内製化やエンジニア組織立ち上げの苦労や現状などを、組織立ち上げの中心人物である斎藤氏に、お伺いしました。


株式会社クオカード デジタルイノベーションラボ プロダクトグループリーダー
齋藤 健一

フリーランス、SIerを経てベンチャー企業数社でCTOを歴任。現在はQUOカードPay開発の責任者としてチームをリード。


ファインディ株式会社
山田裕一朗

同志社大学経済学部卒業後、三菱重工業、ボストンコンサルティンググループを経て2010年、創業期のレアジョブ入社。レアジョブでは執行役員として人事、マーケティング、ブラジル事業、三井物産との資本業務提携等を担当。その後、ファインディ株式会社を創業。

経験を大きな土壌で活かしたい。組織の立ち上げをスタート

——まずは、自己紹介をお願いします。

齋藤:
経歴は、最初3年ほどIT以外を転々として、派遣やフリーランスとしてWebエンジニアをした後、SIerに入社しました。その後、ベンチャー数社でCTOをやっていまして、その会社で外注していたシステムを内製に切り替えるということをやったりしていました。

2017年11月にクオカードに入社して、2019年の3月に「QUOカードPay」というサービスをリリースしました。その開発の責任者をしています。入社した時には、もともとエンジニアやデザイナーがいない組織だったのですが、すでにリリース日がほぼ決まっている状況で。最初は全部内製化することは諦めて、外注と内製は切り分けて進めてきました。

エンジニアやデザイナーの採用も進める必要があったんですけど、いわゆる昔ながらの中小企業という感じだったので、まずはリモートワークやフレックスといった制度を整備しつつ、SlackやGitHubなどのツールを入れたりして。そうやって採用を進めて、なんとか無事リリースできました。

——そのタイミングでクオカードに入られたのは、どういった理由があったのでしょうか?

齋藤:
今まで数社のベンチャーでCTOをやっていて、ベンチャーは自由で人数も少ないので、変えられるところも多い一方で、予算や株主などいろいろな制約がありまして。今回は親会社が大きな会社で、充分な予算を使って立ち上げられるという背景もあり、やってみようと思って入社しました。

クオカードのエンジニア組織の内製化と現状

——エンジニアがいない組織の立ち上げはどのように進めたんですか。

齋藤:
はい。私が入社した時は、リリース日だけが決まっていて、そもそもシステムもまったくなく、メンバーもいなかった。組織作りや採用、システムの要件定義など、すべてを並行してやらなければならない状況でした。ただ、UXを考えるとアプリはなるべく内製でやった方が良い、というのが経営陣とも一致した意見でした。

なので、まずは一刻も早く求人を出そうと思っていたんですけど、みんな朝8時45分にスーツを着て出社するような会社なので、それを求人に書いても誰も来ないだろうと。最初はそういった話を、何度も時間をかけて会社に説明しました。

まずは、就業規則を変えてフレックスやリモートワークを導入できるように、経営企画の人と相談して進めつつ、並行して「そもそも誰のためのシステムなのか」というところから、プロジェクトメンバーと要件定義を固めていきました。

就業規則が決まってきたら採用を開始しつつ、採用できたところから自分の手を離していって、残っているタスクを対応していくという、かなり綱渡りなやり方で進めていました。それで、一応なんとかリリースできたので、上手くいったと言えばそうなんですが、現状はその弊害が出てきてしまっている部分があって。

立ち上がり、10人ちょっとのエンジニアまで増えた頃、コミュニケーションが上手く取れていないとか、作ろうとしていたものの認識が合わないという問題が起きていました。それに対してスクラムを導入したり、GitHubのプルリクエストを利用したコードレビューなども取り入れて解消していきました。

——当時は、かなり急速に組織を立ち上げていったんですね。

組織と内製化を成功させるには経営陣の納得が必要だった

——エンジニア組織が元々ない会社を動かすことに苦戦するマネージャーは多いと思いますが、どうやって経営陣を説得することができたんですか。

齋藤:
仮にエンジニアがいないと話にならない状況であれば、まずはエンジニアが行きたいと思う環境を作らなければいけないと思っています。採用が上手くいっている会社さんは露出を頑張っているところが多いので、いろんな事例を踏まえて「こうしないと採用が上手くいかないし、となるとビジネスも立ち上がらないですよね」と説明していきました。

リモートワークなどは、経営陣から反発されることが多い部分だと思ったので、今何をやっているか確かめられるツールもあるし、家にいるからといって仕事していないみたいな状況には必ずしもならないですよ、と伝えましたね。例えば、GithubとSlackを連携するとか、やり方はいろいろある、とかいろんな話を。

けど、やっぱりスムーズにいかないこともあるので、そうしたら何回も言い続けます。たしか心理学か何かの本で読んだのですが、1~2回言われた程度では人間の頭に入らない。何回も言われると、抵抗がなくなってくるんです。ただ、あまり言いすぎると怒られるので温度感を見つつ、他社事例を踏まえて粘り強く交渉を続けるというのは、私がよくやる手法です。

——どんな事例が経営層に刺さったんでしょうか?

齋藤:
今回の場合だと、フィンテックのペイメントサービスなので、競合他社って巨人ばかりなんですよね。そういうところは当然働きやすく、エンジニアが入りたい組織になっているわけなので、「こういう会社と戦っていかなきゃいけない」と言って全部見せました。誰も8時45分に来てないですよね、と(笑)。

リモートワークなどは入れていないところもあるので、それは導入するとこうなってとか、いろいろ説明します。「とにかく早くやらないと採用できない」「こういう会社と戦うためには、そんなやり方ではダメです」と言い続ける。

——競合の話を出しつつ、とにかく繰り返すという。

齋藤:
そうですね。上手くいっている会社を例に出して「うちとこの会社、どっちに行きたいですか?」と並べたら、当然そっちに行きたいわけですよね。なので、うちもそれに勝てるようなものを用意しないとダメだと。

内製化や組織作りで直面する課題と対処法とは?

——組織をつくる下準備ができて、次に内製化や組織づくりに取り組まれる中で、どんな課題があってどのように対処してきたのでしょうか。

齋藤:
スケジュールありきで採用して走り続けてきたので、それによる歪みがかなり起きました。人を集めてきただけでは良いチームにならないと言いますが、まさしく今そんな状態になってしまって。いかに人の集団ではなく組織にしていくかというのを、やり直しましたね。

エンジニアから選ばれる環境を作りたい

——エンジニアにとって働きやすい環境をどのように作っていったんでしょうか?

齋藤:
まず入りの段階で、フレックスやリモートワークなど取り入れている制度を求人票や媒体に全部書くようにして、いいと思う人は来てくださいと。なるべくミスマッチをなくすために、面接に来てもらった人にも「こういう意志で、こういう制度でやっています」と全部説明しています。

あとは、心理的安全性とよく言われていると思うんですけど、自立的な組織を作っていきたいので、できるだけ指示と取られないような形にしたいと思っています。私がエンジニアやデザイナーの上長なので、評価の権限を持っている以上は難しい部分があるので、なおさらですね。

経営学の本なんかでも、いわゆるメリハリのある評価は組織の生産性を下げると書いてあったりしますし、一般的なMBOによる評価制度は時間が掛かりすぎるので辞めましょうと。海外で人事評価制度を廃止する会社も急速に増える中で、よっぽど1年間何のコードも書いてないとか、もしくはものすごい貢献をしたとかでなければ、基本的に評価せず一律に上がっていくような形に、うちのチームだけ評価制度を変えさせてもらいました。

なので、年次の目標は立てないです。逆に気に入らないことがあったら、私に全然言ってくれとも伝えています。それで評価を下げることはないし、もし何か直して欲しいところがこちらからあれば、週次でやっている1on1で伝えるので、そこでフィードバックとして受け取って欲しいと伝えています。このやり方も、ちょっと見直してもいいかもとは思っているんですけど。

なるべくエンジニアが業務そのものに集中できるように、私がもし間違ったことを言ったり、働きにくい環境を作るようなことがあったりしても、それを正せるような環境を作りたいと考えて、そういった取り組みをしています。

——斎藤さんはエンジニア視点で業務の効率化や組織について考えていらっしゃるんですね。最後にクオカードに興味をもっているエンジニアにメッセージをお願いします。

齋藤:
クオカードの開発環境は、顧客に価値を提供するためにどうすれば良いかを考えて行動するのが好きな方に合っていると思いますね。

なぜなら、ご自身の意向とスキル次第で、幅広い技術に触れる機会があり、それを実践する土壌があるからです。リアルで使われていたクオカードをデジタルで拡大させる中で、企画通りにそのまま作るのではなく、開発者の視点で顧客のためにどのようなものをどのような技術で作るかを考えて進める事ができる面白さがあります。

——ありがとうございました