業種を問わず、スタートアップからエンタープライズまでのあらゆる企業へクラウドサービスによる価値を提供するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)。AWSでは、AWSのサービスの価値を顧客に伝え、ビジネスの課題を解決に導くための「ソリューションアーキテクト(SA)」というポジションが存在します。
今回は、エンタープライズ担当のSAとして働く柏村さんにインタビュー。技術側とビジネス側、その両方の知見を活かして働くことができるSAという仕事の魅力について、大手SIer出身である柏村さんの経歴を踏まえてお話を伺いました。
■柏村 拓哉
1986年、茨城生まれ。新卒で日系大手SIerにて業務Webシステムに関する研究開発に従事。OSSフレームワークの開発を行うとともに、実プロジェクトへの参画・適用を行った。他、自社セミナー・プレゼン実施などの対外広報活動も精力的に・企画・活動を行なった。
2019年に退社後、アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社にソリューションアーキテクトとして参画し、流通・小売業のエンタープライズのお客様を対象に、AWSの導入やビジネス課題解決のための技術支援を行っている。
ーーソリューションアーキテクト(SA)という仕事について、柏村さんが所属されているエンタープライズのチームではどういった役割を担っているか教えてください。
SAは、AWSを利用するお客様のビジネス発展を技術の面からお手伝いさせていただく仕事です。私が所属しているエンタープライズのチームでは、大規模な企業様に対するAWSの導入や事業の支援を行っていまして、その中でも私のチームでは流通・小売業のさまざまな大企業の方々を担当させていただいています。
ーー技術の面から支えていく役割とのことですが、お客様とはビジネス的な面も踏まえてディスカッションされることは多いのでしょうか?
そうですね。最初は、技術部門のメンバーやリーダーの方とお話させていただくことが多いのですが、話してみると「これはビジネス上の制約があって、なかなか進めないんです」といった課題にぶつかることも多くあります。
そういった場合に、ビジネス側の方にも入っていただいて、技術部門の方とビジネス側の方と我々で、一緒にディスカッションしながら解決策を探っていきましょう、という進め方をすることも多々あります。
ーーお客様の課題に応じてさまざまな支援をされていると思いますが、社内ではどういったところが評価されるのでしょうか?
お客様のビジネスの成功のために何が必要なのかを考え、実現に向けていかにお手伝いできたかということが大きな評価のポイントになります。
特にエンタープライズのお客様は、お客様ごとにクラウドの活用状況が大きく異なるため、そのお客様や部門の状況に応じて「何がこのお客様のために必要か」を常に考えながら技術支援を行うことが重要になります。導入前や導入初期のお客様にはまずクラウドやAWSの紹介自体から始まりますし、よくAWSを使って頂いているお客様には、最先端の技術を使って新しい業務を実現していくために勉強会やアーキテクチャ設計の支援を行うなど、実際の支援の形は様々になります。
Amazonの行動指針を表すLeadership Principlesの最初の1つに、Customer Obsessionというものがあります。これはお客様を中心に考え、お客様にとっても最も良い方法を提案していく行動が重要であるということを表しています。極端な話で言えば、AWSだけにこだわる必要はなく、世の中に本当にたくさんあるいろんな選択肢を活用し、お手伝いしていく。AWSはその中心にあるといった考え方をしています。
ーー柏村さんは現在、何社くらいを担当されているのでしょうか?
私たちのチームではエンタープライズの大きな企業様に対し、かなりお客様に寄り添った活動を続けています。そのため個々の担当としては数社〜十数社になります。
最近では、クラウドを始めとしてAWSをお使いいただいているお客様の数も、お客様の中で使われる規模もどんどん大きくなっています。我々が担当するエンタープライズのお客様も、これからさらに増えていくと予想しています。
100人超規模のシステムアーキテクチャ検討成果報告会での登壇の様子
ーー柏村さんがSAの仕事を通じて、特にやりがいを感じられることについて教えてください。
まず第一には、お客様のビジネス成功に貢献できていると実感できることですね。例えば、AWSを使ったシステムのソリューション設計をして、それがお客様のシステムに実装されることでエンドユーザーの数が増えたり、売り上げが伸びたり。「このソリューションやアーキテクチャを提案して良かったな」と実感できるのが、すごく大きなやりがいの1つです。
それから、特にお客様を担当するSAにとって、技術領域はAWSのサービス全部なんです。インフラやネットワーク、セキュリティやデータベースであったり、もっと上位層のWebアプリケーションであったり、機械学習やIoTなどまで。
そういったすべての領域から、お客様がやりたいことを実現するための方法を選んでこなければなりません。もちろん大変さもありますが、幅広い技術を知っていける楽しみはとても大きいと感じています。また、AWSには各領域のスペシャリストもいますので、そういった技術者とディスカッションすることで、技術の深さも追求することができ、広さと深さの両立をすることができることも魅力ですね。
もう一つ、これはクラウドならではの良さだと思いますが、やりたいと思ったことをすぐにできる環境も整っています。例えば、「機械学習のこのモデルを使ってみたい」と思えば、AWSのSageMaker※1を使って、機械学習モデルを作成し、GPUマシンを立ち上げて、ちょっと計算してみる、といったこともできます。技術領域的な面白さもあるし、それをすぐに実現できる環境も与えられている、というのがすごく楽しいです。
※1 Amazon SageMaker: AWSが提供する機械学習のためのプラットフォーム (https://aws.amazon.com/sagemaker/)
ーー柏村さんがAWSに入社されるまでの、主なご経歴を教えてください。
前職は大手日系SIerで、Webアプリケーション開発に関する研究開発をしている部署におりました。基本的には研究開発がメインだったのですが、実際のプロジェクトで使ってもらうこともミッションの1つだったので、研究開発をしながら、半分は実際のプロジェクトに参加するような形で携わっていました。
私のいたチームでは、HTML5のフレームワークを作ることが大きなミッションでした。OSSとして公開もしていたため、GitHubを使っており、チームとしてかなりGitHubにコミットしたりもしていました。
そのフレームワークをプロジェクトで使ってもらって、さらに改善していくということをしていたので、プロジェクトに参加した時には、現在のSAのようなアーキテクトの仕事から、いわゆるデベロッパーやプログラマーのような仕事まで、そういう多様な役割を持って案件に参加していました。
珍しかったのは、そのフレームワークがOSSだったということもあって、いろんなところで宣伝・普及活動をさせていただいて。セミナーでお話させていただいたり、HTML5の本を書かせていただいたりと、幅広い活動をしていました。その後、昨年AWSへ転職したという経歴になります。
ーーAWSへの転職を決めた際、 AWSのどういったところに魅力を感じられましたか?
私は前職でずっと技術を中心に活動していたのですが、今の時代を見ると、技術をどうビジネスに活かすか、ということが重要になっていると感じるようになりました。ちょうど海外ではUberやAirbnbが登場するなど、ITを使って今までのビジネスの在り方を変えてしまう例が出てきたところでもありました。しかし一方で、日本では「技術をどうやってビジネスに結びつけるのか」という課題が多いですよね。そういった中で、今後は技術者の目線だけではなくビジネス的な感覚も持つ必要があるのでは、という危機感を持つようになりました。
そう感じていた時に、AWSの方とお話させていただく機会があり、SAという仕事では「深い技術の知識を活かしながら、お客様のビジネスをお手伝いできる」と聞いて、興味を持ったことが大きなきっかけでした。
他の企業ではなくAWSを選んだ理由としては、私にとってはクラウドの領域が今までほとんどやってこなかった領域だったんですね。新しいことにチャレンジするのがすごく好きな人間なので、そこに挑戦してみたいという思いがまず1つありました。
それに、世界的にIT業界を牽引しているAWSでは、どういう働き方をしているんだろうという興味は以前からあって、そのAWSが日本でどうやってビジネスを盛り立てていくのか、ということにも興味があったんですね。加えて、日本の会社とは違う外資系のカルチャーも経験したいと思っていて。そういった総合的な理由でAWSに決めました。
ーー過去のご経験が、現在の仕事でどのように活かされていると感じますか?
技術的にはクラウドというとインフラのイメージが強いですが、実際にはAWSが出しているサービスはさまざまな領域に渡っていて、Webアプリケーション開発であったり機械学習であったり、そういう領域もこれから引っ張っていかなければなりません。そういったところで自分が持っている経験を活かしてお手伝いできるというのが大きいですね。
あとは、私自身が日系のSIerで働いてきた経験があるので、エンタープライズの大きな企業がどういった課題感を持っていて、どんな働き方の文化があって、どう話を進めていくべきか、といった感覚が身についているので、そういう部分でも自分の経験を活かせているなと思います。
ーーSAとしては、お客様に対して提案することがミッションかと思いますが、そういった経験がない方でも活躍できるチャンスはあるでしょうか?
社内にはすごく充実したトレーニングがありますから、本人次第で誰でも活躍できる場所だと思います。例えば、入社してすぐいろんなエンジニアと話す機会や、仕事のやり方を見学する機会などもありますし、そういったところからどんどん吸収して発揮できる方であれば、経験がなくても問題ないと思います。
ーー柏村さんはAWSの中で、今後どういったキャリアパスを思い描かれていますか?
直近の目標としては、まずはAWSの知識をより身につけていって、AWSの技術でいかにお客様に貢献できるかを深掘りしていきたいと考えています。
また、転職した理由の1つでもありますが、ビジネスと技術の両方の知識を身につけて、ビジネス側の知識があるからこそできる技術的な貢献をしたいなと。もともと技術が好きでずっとやってきたので、最終的には誰も生み出せないような技術を生み出したい。それにはやはりビジネス側のことも考えなければなりませんから、机上の空論にならないものを生み出していける人になりたいと思っています。
それを実現するためには、多くの経験をしていかなければならないし、最前線で活躍できる人間になる必要があります。最前線で必要な知識は何かを見極めながら、それに対応できるようなエンジニアになっていきたいと考えています。
具体的なポジションを挙げようとすると難しいのですが、AWSにはさまざまなポジションがあって、本当にいろんなことをやっている方がいますし、そういったところにチャレンジをしていける環境があると感じています。
ーー実際に入社されてから、社内のカルチャーについて印象的だったことはありますか?
まず1つに、個々がリーダーシップを持って仕事を進め、その知見をまわりにオープンに発信していける文化があって、それがすごく好きですね。
例えば、社内で、ベストプラクティスシェアリングといって、「こういう活動をしたら上手く行きました」という内容を定期的に発表したりするんです。社外向けにも「This is my architecture」といった形で、AWSのお客様が実現された優れたアーキテクチャを紹介していたり、様々な技術情報をブログやレポートで共有しています。また、良いことだけでなく上手くいかなかったことも、Lesson & Learnとして経験を共有できるようなメカニズムが育っていて。そうしたものを通じて、経験の浅いソリューションアーキテクトでも学びを得られるところがすごく良いなと。
株式会社スナックミー様のThis is My Architecture(http://go.aws/3eGy27X)
もう1つ、これは本当に面白いなと感じたのですが、Amazonにおけるコミュニケーションの方法です。Amazonにはナラティブな文化というものがあるんですが、例えば、あるサービスの企画やお客様に対してこの1年どうフォローしていくかという計画を立てたとします。そういう時、一般的には図を使ったPowerPointの資料を作ることが多いですよね。でも、Amazonでは何ページかに渡る文章にするんです。
これは昔AmazonのCEOであるJeff Bezosが、PowerPointの資料を見て「この資料じゃわかりづらい、お前が持っているメモを見せろ」と言った出来事に由来しているそうで。PowerPointでは見栄えを良くするために一部の情報が抜け落ちていますが、メモにはその人の言いたいことが全部書いてある。それが重要な情報であると。
作文する時は情報を正確に伝えるために一言一句まで考えるので、理論的な背景まで相手に伝えられたり、具体性が増した議論ができたり、結果として我々の成果の質が上がるといった流れが非常に上手くできていて、すごく好きな文化です。これを皆が実践していることがすごいし、カルチャーショックを感じるような独自の文化だなと思いました。
まだ入ったばかりの私のような立場では大変な面もあるんですけど、そういうものを習得していくと、本当に高いコミュニケーション能力を習得できるんだろうなということはすごく実感しています。
ーー働き方についてもお伺いしたいのですが、普段どういった働き方をされているか教えていただけますか?
働き方は基本的に、時間も場所もかなりフレキシブルです。特に私たちSAは、さまざまなお客様の対応をしているので、いろいろな場所に行く必要がありますし、海外のお客様やアメリカのAWS本体のチームとミーティングをすることもあるので、場所や時間については柔軟に選択できます。
テレビ会議システムがあったり、シェアオフィスが何箇所もあったりと、リモートワークをする環境が整っています。私は結婚していて子どもがいるのですが、例えば妻が家にいられない時に、家で仕事をしながら子どもの面倒を見るなどいったことも実現しやすい。自分にとってやりやすい働き方に合わせられる環境が、仕組みとしても整っていると感じます。
ーー外資系の企業に対して、ハードワークといったイメージを持たれる方も多いですが、そういった点はいかがでしょうか?
求められているレベルはそれなりに高いので、それに対して応えようとするとハードワークになる面もあるとは思います。ただ、かなり自由に自分がやりたいことに取り組める環境があるので、そういう意味では楽しいハードワークなのかなと私は思っています。
ーー先ほど海外のお客様やチームとのやり取りがあるというお話が挙がっていましたが、グローバルな面での面白さがあれば教えてください。
グローバルな仕事としては、AWSのサービスを作っている海外の開発チームと打ち合わせをすることが多いですね。こちらから「お客様がこういうことで困っているんだけど、どうやったら実現できる?」と助言を求めたり、逆に開発チームから「この新機能を使って欲しいと思っているんだけど」と連絡をもらったり、両方の視点から話が始まります。
深い知見を持つ開発チームの方々と話せる機会があることで、自身の知見もどんどん溜まっていきますし、お客様と向き合う役割だからこそ得られる経験を開発チームにフィードバックでき、双方にとって良いディスカッションができているので、とても面白いですね。
ーーそれでは最後に、どういった方に来て欲しいと考えているか、メッセージをお願いします。
どのような考えやバックグラウンドを持たれている方でも、ぜひ来ていただきたいなと思っています。私のように技術畑にいたけれど、ビジネス側に興味があるという人でも、その逆で今までビジネス側にいたけれど、技術に興味があるという人でもいいと思います。
Amazonには自らリーダーシップを発揮していくことを重視する文化がありますから、やる気があってチャレンジしたいと思っている方であることは重要かもしれません。新しくやりたいことがあったり、そういった叶えたい野心がある方はぜひ来ていただけたらと思っています。AWSでは、そのような方が能力を発揮できる環境が揃っていると思います。