宿泊事業者向けのSaaS「suitebook(スイートブック)」の提供や、IoTやクラウドソーシングを活⽤したスマートホテル運営を⾏う、株式会社SQUEEZE。
今回は、代表取締役CEOの舘林真一さんと、取締役CTOの関根裕紀さんにインタビューを実施。SQUEEZEの事業が生まれた背景や、2つの事業を軸とするSQUEEZEならではの強み。そして、エンジニアに求めることやプロダクトへの関わり方などについてお話いただきました。
――まず最初に、SQUEEZEが掲げるミッションや、取り組んでいる事業について教えていただけますか?
舘林:
我々は「価値の詰まった社会を創る」というミッションを掲げています。世の中にある住宅余剰や、人々の空き時間という遊休資産を有効活用する仕組みを創り、あらゆる「空間・時間」に価値を詰めていきたい、という思いを込めました。
現在は宿泊事業に特化し、空き家や空きビルなどの遊休資産を効率よく運用していくため、そして人手不足に悩む既存の宿泊施設の課題を解決するために、2つの事業を展開しています。
1つは、B to Bのプラットフォーム事業。宿泊運営の業務を効率化できるSaaS「suitebook」を、さまざまな事業者さんに提供しています。そしてもう1つは、これを利用して自社で運営しているB to Cのスマートホテル事業。自社ブランドを展開して、全国で多くの宿泊施設を運営しています。
――近年、空き家問題などが話題になっていますが、そういった社会課題に対してどのようなインパクトを持つのでしょうか?
舘林:
現状ではあまり活用方法がない、空きビルや狭小地。例えば、今だと駅近であっても駐車場にしかなっていない土地があったりしますよね。そういった不動産を、宿泊施設として活用することができるようになります。
それから、既存の宿泊施設では、人手不足ですべての部屋を稼働させられなかったり、外国人対応ができていなかったり、といったケースも多くあります。そういった施設に対して、システムやオペレーションを提供することで、課題を解決することができます。
我々の強みは、損益分岐点の低いプロパティオペレーションが実現できることにあります。これによって、今は活用できていない不動産を効率よく運用したり、収益性の少なかった宿泊施設を収益化していく。インパクトが大きいのは、こうした領域ですね。
――SQUEEZEでは、3~5年後にどのような事業展開を考えていますか?
舘林:
3~5年後に考えているのは、宿泊事業で得たノウハウや技術を横展開していくこと。今は宿泊を軸にしていますが、時間貸しなどのさまざまな方法、そしてさまざまなプロパティの運営に寄与していけると思っています。それに加えて、海外への展開も視野に入れています。
代表取締役 CEO 舘林 真一
東海大学政治経済学部卒業後、ゴールドマンサックス証券シンガポール支社に勤務。その後、トリップアドバイザー株式会社シンガポール支社にてディスプレイ広告の運用を担当。2014年9月、株式会社SQUEEZEを創業し代表取締役CEOに就任。
――この会社の事業やミッションのもとになった、原体験があれば教えてください。
舘林:
私は北海道が地元で、実家が不動産賃貸業をしているんですが、保有しているアパートに何部屋か埋まらない空室があって困っていたんです。
5年前、私はシンガポールで働いていて、旅行をする時にはよくAirbnbを利用していました。ただ当時、日本でAirbnbをやっている人は少なくて、北海道では20人しかいなかったんです。地元の旭川市でやっている人は誰もいませんでした。
それで、親に「Airbnbに掲載してみたら?」と提案したんですが、外国人対応もできないし全然わからないからと、最初は断られてしまったんです。でも、空室にしておくよりは、ということでスタートさせてみたところ、思った以上に良くて。家賃の3~4倍くらい入ってくるようになったんです。
空室を住む人に貸すのではなく旅行者に切り替えるだけで、こんなにバリューアップできるんだなと。しかも、その運営はすべて自分がシンガポールからやったんです。利用者の9割は外国の方なんですけど、問い合わせサポートは全部メッセージアプリで。清掃会社さんともLINEやSkypeを使ってやり取りをして、まったく問題なく運営できたんですよ。
その時に、宿泊運営はかなりの部分をクラウド化できると感じて。それを事業化すれば、いろんな全国の空き家や遊休資産に対して、宿泊事業が活きるのではと思ったんです。それで、シンガポールで働いていた会社を辞めて、日本で起業しました。SQUEEZEは、こうした実体験から始まった事業です。
――関根さんがジョインされた時、事業やミッションのどんな部分に共感されたのでしょうか?
関根:
もともと僕も地方出身で、地元は福島県なんです。地方では、若い人でも仕事がなかったり、駅前もシャッター街になって活気を失っていたり、という現状がある中で、宿泊事業にはすごく可能性があると感じていました。
今後、アジアの方々がどんどん裕福になって、日本がリーズナブルな旅行先になっていくと思っています。そうすると、今まで主な観光先になっていた東京や大阪などの都市だけでなく、地方にも足を運んでもらえる可能性があります。
宿泊事業を軸にやっていくことで、最終的には地方と都市を繋げたり、地方と世界を繋げたりするような仕組みを作っていけるんじゃないかと思って、そういう部分に共感して入社しました。僕がジョインしたのは、会社ができて1年後くらいの頃ですね。
取締役 CTO 関根 裕紀
複数のスタートアップ、ベンチャー企業にて新規サービス開発やマネジメントを経験。2015年10月、株式会社SQUEEZEのCTOに就任。コミュニティ活動として、PyCon JP 2015 副座長、「Pythonもくもく会」の主催。共著書に『Pythonエンジニア養成読本(2015 技術評論社刊)』『Pythonエンジニアファーストブック(2017 技術評論社刊)』がある。
――SaaSを提供していて、ホテルも運営されているという、その両方の事業をやっていることでの強みはどんなところにありますか?
舘林:
我々は当初、自分たちのホテル運営のオペレーションをより効率良くするために、自社でシステム開発をスタートしました。自分たちでオペレーションをしているからこそ、自身がプロダクトのファーストユーザーとなり、世に出す前にPDCAを回すことができる。ここは、他社と比べて強みになっています。
そして、自ら作り上げた宿泊施設のクラウド運営などの方法を、新たな運用方法としてパッケージとして販売していく。オペレーションに詳しい我々が、システムとセットで導入からコンサルティングすることができるのも、強いところだと思います。
そういう意味で、まさにドッグフーディングというか。両方の事業をやることが、当社のユニークネスであり、面白いところだと思っていますね。
――オペレーションというのは、例えばホテルの部屋のシーツをセットするところなどから、すべての作業のことですか?
舘林:
そうですね、全部です。最初の頃は、自分たちで現地へ行って清掃したりもしていました。当時はExcelで管理していたので、うまく予約の変更が反映されず、お客様が部屋に入ったら清掃できていなかった、なんてこともあって。
その後、人を増やしてなんとか人海戦術で対応していたんですけど、それでも多くのミスが起きていました。それで、ミスが起きないようなシステムを作っていこうと。
――ホテル事業は、いつ頃からスタートされたのでしょうか?
舘林:
自分たちのブランド展開としてホテル事業をスタートしたのは2017年9月、2年前ですね。それまでは運営受託で、オーナーさんが所有する物件のオペレーションを引き受ける、という形でした。
現在、自社ブランドとして運営しているホテルは8ヶ所、業務提携している京王さんの物件なども含めると、全国16ヶ所でホテル運営しています。来年には、福岡や札幌にも進出する予定です。
それから最近では、カンボジアのプノンペンに子会社を作り、多言語対応のオンラインコンシェルジュを行う拠点を立ち上げました。「suitebook」にプラスして、オペレーションをサービスとして取り入れた形での販売を事業化していくことにも取り組んでいます。
――エンジニアはプロダクトへのどのような関わり方をしていますか?
基本的にはプロダクトマネージャーを中心に、それぞれの事業部で定例ミーティングを開いて、要望を聞きながら進めています。それ以外には、実際に開発メンバーが宿泊施設に行って、自社のプロダクトを使っているフロントの方にユーザーヒアリングしたり、自分たちでフロントや清掃を体験したりしています。
実際に使ってみることは大事だと思っていて、「こう改善した方がいいな」という部分を身をもって体験します。クオーターに1回くらいのペースで、フロントエンドやサーバーサイドなど関係なく、どのエンジニアも行くようにしています。
――実際に、そういった体験からのフィードバックを反映したこともありますか?
関根:
ありますね。前回行った時は、フロントの方が見る予約一覧が少し使いづらいという要望があって、そのフィルタリングを直したり、あとは単純にスピードの遅さを改善したりしました。
あと、お客様がタブレットでチェックインする無人のホテルがあるので、その場合は実際にどうやってチェックインしているかを見に行ったり、自分たちが使って体験してみたり。こうした取り組みについては、まだまだ少ないと感じており、今後はより一層意識して続けていきたいと考えています。
――SQUEEZEでは、どんなマインドを持ったエンジニアが理想的ですか?
関根:
2つの目線があると思っていて、まずB to Cのホテル事業の場合は、まだアナログで不便な部分がたくさん残っている中で、ユーザー目線でどうなったら楽になるか、どんなテクノロジーが使えるだろうか、と考えられる方ですね。
B to Bのプラットフォーム事業については、「suitebook」で全部を抱えるつもりはなく、例えばIOT機器でも、スマートキーやチェックインタブレットがあったり、「suitebook」でもAPIを提供したりしていて、さまざまなところと連携をするプラットフォームとなることを想定しています。
なので、どこをどんな風に設計すると、より業務が効率化されたり、ゲストが獲得できるのか、という課題を発見して解決できるような方が理想的ですね。
――エンジニアにとって、御社ならでは面白さはどんなところがありますか?
関根:
将来的には、宿泊事業の運営データが溜まってきます。世の中的にはまだ宿泊事業でデータが上手く活用できていないので、そこはすごく面白いところかなと思っています。
例えば、宿泊施設は価格と稼働率がすごく重要なんですが、主にレベニューマネージャーという専門の方が価格を設定しています。競合の情報や自社施設の稼働率、シーズナリティーなどを踏まえて、Excelで計算して管理しています。
それを、データを活用することによってより最適な価格を算出したり、航空機業界などではメジャーなダイナミックプライシングを導入したり、といったことも実現できると思っています。
それから、蓄積されたデータによって、どの地域にどんなホテルを建てるとどれくらいの収益が出る、といったことがわかってくるはずなので、それをもとに不動産オーナーと運営をしたい方をマッチングする、などといった可能性もあります。
――中でも、”今このフェーズだからこそ”面白い部分は、どのようなところがあるでしょうか?
関根:
今はプロダクト自体もまだまだ作り込んでいく段階で、今後さらにお客様も増えていくフェーズにあります。まだプロダクトが出来上がりきっていないので、どういう機能を作っていくべきかなど、直接そこにエンジニアが関われる状況です。
決められたものを作るのではなく、エンジニア自らアイデアを出して、実際にものづくりをしていけるので、自分自身としてもすごく楽しいところだと感じています。
――全社的な組織づくりにおいて、意識されていることはありますか?
舘林:
なるべくオープンに、数字やKPIはどの部門でも見れるようにしています。議事録も部門を問わず見ることができるし、さまざまな情報をドキュメント化してKibelaなどで共有しています。例えばビジネスサイドのSlackにも、エンジニアが入っていたりとか。各々が情報を自由に見れるような環境にしています。
関根:
あとは会社として、モバイルワーク(リモートワーク)を推奨しているので、その場にいない人でもわかるように情報を残しておくことは意識していますね。エンジニアであれば、どういう設計で考えているのかなど、なるべくドキュメントとして残して、後から参照できるような運用にしています。
舘林:
去年、全社的にモバイルワークを導入したんです。組織としても、いろんな地域にホテルが増えていくわけなので、社員が1ヶ所に集まるのは無理があると。それで、職種を問わず全員がモバイルワークOKという形にしました。
業務形態上、それが最も効率が良くて適切だというのもあるんですが、モバイルワークを取り入れることでいろんな場所に行って、どんどん新しい体験を皆にしてもらいたいという意図があります。
どこかに旅行したり宿泊したりすることも、体験じゃないですか。それを、いかに良いサービスにしていくか考えることにも繋がると思っているんです。
――一般的にはリモートワークと呼ぶことが多いと思いますが、”モバイルワーク”という名称にしているのは理由があるのでしょうか?
舘林:
英語的に”離れている”ことを表すリモートという言葉は、中心があってそこから離れている、という感覚が僕はあります。つまり、リモートワークって”何か”からリモートしている状態だと思うんです。
しかし、我々はそもそも中心とする場所はなく、皆がいる場所がコアだと考えています。なので、東京本社や大阪支店といった言い方もしていません。
そういう背景から、中立的で主従関係のないモバイルワークという呼び方をしています。どこにいても皆がいる場所が価値があるところで、各々そこでバリューを出してください、というシンプルなメッセージにしています。
――エンジニアの皆さんも、実際にモバイルワークをされていますか?
関根:
はい。ほとんどモバイルワークの人もいますし、半々くらいの人もいます。もちろん出社したい人は来てもいいですし、人によってそれぞれですね。
オフィスではZOOMを常に立ち上げていて、お互いに気軽に声を掛けられるようにしています。これは開発チーム以外でも同じで、ZOOMでオフィス側の画面をずっと出しているので、話しかけたいタイミングで「◯◯さん」と声を掛けることができます。
東京在住でモバイルワークをしている人もいますが、チーム内には長野や神戸などの地域で働いているメンバーもいます。そこは多様性という意味でも広げていきたいですし、例えば地元に戻ることを考えているエンジニアとか、そういう方にもぜひ来ていただきたいですね。
――採用プロセスにおいて、ミスマッチを防ぐために意識されていることはありますか?
関根:
チームでどのような採用フローでいくかを話し合って、それに則って採用活動をしています。組織がまだそれほど大きくないので、エンジニアの場合はほぼメンバー全員に会っていただいて。技術的な話もしつつ、その人の考え方や経験が合うかどうかを判断をして、全員が良ければ次のステップに進むという形でやっています。
舘林:
我々のビジョンやミッションについても、かなり意識して伝えるようにしています。どんな事業をやっていて、それをなぜやっているのか、ということをしっかり理解して欲しいので。
エンジニアのメンバーも、例えばPythonが得意な人が多いとか、そういう技術面もあるとは思いますが、どちらかというとビジネスや事業、ミッションに共感して入社している人が多いかなと思いますね。
関根:
そうですね。採用面談でのフィードバックも、ミッションやビジョンに共感したかどうか、SQUEEZEのビジネスのどこに興味を持っているか、というのは重要なポイントの1つになります。なので、どれだけ技術力がある人でも、あまり事業に興味がなさそうだと、次のステップに進まないということはありますね。
舘林:
たくさんのベンチャー企業があって、SaaSを提供している企業も、リアルビジネスをやっている企業も、さまざまある中で、なぜSQUEEZEなのか。そこについて、すり合わせしながら面談を進めている感じです。
僕もエンジニアの最終面談に入るんですけど、メンバーと話してどうでしたかと聞くと、「事業のことをエンジニアの方が熱く語っていて驚きました」と、よく言われるんです。これは続けていきたい文化だなと。
関根:
とはいえ、技術についてもかなり真面目にやっているんですけどね(笑)。
――それでは最後に、今どのようなエンジニアに来て欲しいと考えているか教えてください。
関根:
今は基本的に、経験があって自走できる方に来て欲しいと思っています。それから、組織づくりを進めていくことに興味のある方。改善すべきところを自ら提案して、それを実行できるような方に来ていただきたいなと。
技術に限らず、開発のプロセスなども変えていいと思っているんです。今までもトップダウンではなく、チームの皆が議論をしてきて現在の開発組織になっているので、そのやり方は続けていきたいと思っています。