自律移動ロボットシステムを開発・製造するSEQSENSE(シークセンス)は、労働力不足の解決を目指し、警備業務を行う自律移動警備ロボット「SQ2」の実用化を進めています。
「世界を変えない」というミッションに込められた思い、そしてSEQSENSEの組織づくりにおける考え方や求めるエンジニア像について、代表取締役CEOの中村壮一郎さんと、エンジニアの朝香貴寛さんにお話を伺いました。
―SEQSENSEは「世界を変えない」というミッションを掲げていると伺いました。まずは、このミッションに込められた思いについて教えていただけますか?
中村:
このミッションには、我々は本質的なことを追求していきたいという思いを込めています。エンターテイメントのためではなく、使えるロボットを作りたい。例えば、家庭にある洗濯機もロボットですが、”機械”と認識されていますよね。そういう意味で”ロボット”ではなく、本当に使える”機械”を作りたいと考えているんです。
日本では、人口が減少して高齢化が進んでいます。目先の数年で我々が苦しむことはなくても、このままいけば後40年で人口は1億人を割り、生産人口はますます減って、社会保障制度が崩壊する時が来ます。それに対して、テック企業として我々が本質的にやるべきことは、足りない部分をロボットで補って生産性を上げていくことだろうと。
現在、日本では十分に豊かな生活ができていますよね。けれども近い将来には、子どもの貧困や老人の孤独死が深刻な世界になってしまう可能性がある。それをなんとか改善して豊かな生活を維持していくということが、「世界を変えない」ということです。
なので、お客さまに対してもしっかりこの考えをお伝えしています。今、ロボットやAIへの期待はとても大きく、アピール効果も見込んでエンタメ寄りのご要望も多く頂くのですが、それでは我々の目指すところにはたどり着けません。もちろんできる限り要望に応えたいですが、自分たちの本質を見誤らずやっていこうというのが、メンバー全員一致の考えです。
―3年から5年のスパンで、今後どのような事業展開を考えられていますか?
中村:
3年から5年というと、それほど長いスパンではないと僕は感じています。現在の状況としては、自律移動警備ロボットを来年の実用化に向けて進めているところですが、これが完璧なものかというと決してそうではありません。
ある仕事において、まずはロボットやAIにできる領域があって、それがどんどん大きくなっていきます。つまり、ロボットに加えて人と環境を変えることで、その仕事を満たせると思うんですよね。5年くらいの間に、それを少しずつ人の手が掛からないように持っていくというのが、我々のやるべきことの1つかなと。
ただ、そのためにはロボットやAIがする仕事とは何なのか、という要件定義から始めなければなりません。そこに人が介在するのであれば、仕事の仕方も変える必要があります。となるとマーケットのお客さまの理解も必要ですし、そういった部分も含めてやっていかなければならないと考えています。
―現在は警備業界をターゲットとされていますが、今後さらに領域を広げていく展望はありますか?
中村:
我々はもともと警備に注目していたわけではなく、人手不足が深刻化していて、かつロボットによる代替がしやすい領域は、警備なのではないかという仮説を立てたんです。そして、実際にそれは当たっていて、非常にニーズがありました。
今のマンパワーを考えると、他の領域もやりますと宣言するのは難しいですが、次のことは考えなければいけないと思っています。我々は特に、自律移動に対してレベルの高いノウハウがあり、かつそれとインテグレーションする技術を持っています。これらを活かすことで人材不足が解消され、効率化できるマーケットがあれば、そこに踏み出していくべきだろうと。
直近3年ほどは警備の領域に注力すると思いますが、それが手離れしていく段階になれば、新しいこともどんどんやっていければと思っています。
―自律移動ロボットという新たなマーケットをつくっていくにあたって、どんなところに面白さや難しさを感じますか?
中村:
誰も見たことがない世界ですから、仕事1つとっても「この仕事は本質的に何なのか」を考えて、分解していかなければなりません。それを話し合って、解決していくプロセスというのは、とても大事だし面白いですね。
一周まわって結局はシンプルなことに落ち着いたり、時には「この仕事は要らないんじゃないか」なんてことまで考えたり。僕はテクノロジーに関して素人なので、できるだろうと思ったことが、エンジニアからすればとんでもない話だったりとか(笑)。
エンジニアやビジネスサイド、そしてお客さまを含めて、お互いに話し合って理解し合うことが、すごく難しくて面白いし、そこをサボると決して良いものは出来ないだろうという気がしています。
朝香:
ロボットと人が協調する世界が当たり前になっていく中で、そこをいかに違和感を感じさせずにやっていけるかを考えるのが面白いですね。
今は「ロボットを含めた警備とは何か?」ということを考えながら、試行錯誤を重ねていて。基本的にはロボットができることと、警備においてロボットが代替できることを、少しずつすり合わせながら進めている感じです。
―SEQSENSEでは、どのような組織づくりを行っていますか? また、エンジニアサイドに対して、中村さんはどのような関わり方をしているのでしょうか。
中村:
もともとビジネスサイドは僕1人でスタートして、今でも文系出身は3人しかいません。エンジニアが基本になっている会社なので、エンジニアが働きやすい環境をつくるということを一番に考えています。
エンジニアが余分なことを考えなくて済むように、開発以外の部分はビジネスサイドですべて吸収しています。エンジニアはマネジメントも一切しない、というのが基本姿勢です。社内にはハードウェア・ソフトウェア・クラウド・AIと、さまざまな領域に携わるエンジニアがいるので、その中の誰か1人が指揮をとれば良いという環境でもないんですよね。
それから、役職をつけず上下関係を一切なくす、ということも徹底していて、非常に有機的な組織を目指しています。例えば、朝香はクラウドを担当しているエンジニアの中で、いわゆるリードエンジニアにあたる存在ですが、技術に対するディシジョンをする立場という意味で、我々は「ディシジョンメーカー」と呼んでいます。
なので、僕のポジションもアメリカのNBAをイメージして、GM(ゼネラルマネージャー)がいいと思っていて。やっぱりエンジニアがプレイヤーなんですよ。スターのエンジニアを輩出したいし、彼らが主役であって欲しい。僕は完全なる裏方なんです。
お客さんとのビジネスを調整しながら、環境を整えていく。そして、エンジニアには開発や技術の習得に注力してもらって、組織とともに成長していきましょうと。そうやってメンバーが常に成長を感じられる環境をつくっていくことが、何よりも重要だと思っています。
―役職をつけないフラットな組織ということですが、人が増えていったら今後どのような体制になるのでしょうか?
中村:
現在の社員数は30人に近づきつつありますが、まだこの人数の規模であれば、今それぞれが何を考えているかは把握できます。そこは、ビジネスサイドのメンバーが常日頃からコミュニケーションを取ることで、拾ってきている状況ですね。
今後、もっと人が増えて組織が大きくなれば、それぞれのチームを見てくれる人を置いて、どこかにトラブルが生じていないか吸い上げられるような組織にしていきたいと考えています。だから、エンジニアの中でも「組織に対して興味がある」という人がいたら最高ですね。そういう人は、かなりバリューが高いと思います。
―とても要素の多い開発をされていると思うのですが、プロダクトをつくっていく際はどのような流れで進められているのでしょうか?
中村:
まずは、エンジニアとビジネスサイドのメンバーが集まって、プロダクトの方向性について議論を行います。それが定まったら、最もスクラップアンドビルドすることが難しいハードウェアの仕様を検討します。
ソフトウェア側のエンジニアが要求を投げながら、ハードウェアの設計が決まっていき、それに対してソフトウェアの緩やかなスケジュールが乗っていきます。そういった形で、クラウドやAIを含めてウォーターフォール的にスケジュールが決まっていくイメージですね。
朝香:
ハードウェア・ソフトウェア・クラウド・AIの大きく4つに切り分けられて、それぞれインテグレーションしやすいようにはなっています。ですが、それぞれが密接に繋がってくるので、隔たりなくコミュニケーションを取れる状態にないと噛み合わなくなってしまう。これはトップダウンでもボトムアップでも実現できないことなので、そういう意味でもフラットな組織であることが重要になってきます。
―エンジニアが働きやすい環境をつくるために、会社として取り組まれていることはありますか?
中村:
会社の方向性などを含め、何か重要なことを決定する時は、基本的に全員参加ですね。全部オープンにした上で、みんなで議論して決めていこうというスタンスです。ビジネスサイドだけで話し合って「決まったので、これで行きます」というのは絶対にありません。就業規則なんかも、最初にメンバー全員で話し合って決まりました。
―就業規則を含めて、エンジニアの働き方について教えてください。
朝香:
裁量労働制なので出社時間は特に決まっておらず、しっかりと成果を出せれば勤怠は自由です。情報の取り扱いには十分な配慮が必要ですが、リモートワークもして良いということになっています。
ただ、フラットな組織で自分の判断に任せられているところが大きいので、人によってはつらいかもしれないですね。若手でまだ判断しにくい人は相談しながら進めることもできますが、手取り足取りというのはないので、自分が何をすべきか把握できなければ難しいという面はあります。
―SEQSENSEに入ると得られる経験やスキルは、どんなものがあると思いますか?
朝香:
会社として、さまざまな分野のトレンド的な技術要素が凝縮されているので、それをまとめて見ることができるのは、エンジニアにとって得られるメリットかと思います。例えば、ロボットなどの最先端のIoTデバイス開発、ライブストリーミング、gRPCを用いた異なる言語間での通信、移動するデバイスのセンサーデータの機械学習などについては他の会社では中々経験できません。
中村:
産業用ロボットを除いたサービスロボットにおいて、ハードからソフトまでのすべてを含めた形で、本質的なものを追求してやっているのは、国内で我々だけだと僕は思っています。そういう意味で、新たな市場を自分たちでつくり上げていくことができる、というのは1つの大きな価値じゃないでしょうか。
―最後に改めて、どんなエンジニアに来て欲しいと考えているかを教えてください。
朝香:
フラットな組織なので、この会社には上司という存在がいません。待っていても仕事は下りてこない環境なので、やはり自律していることが求められます。
スキルや知識も必要とされますが、実現したいことに対して自身がやるべきことを落とし込めるかどうかが最も重要なのかなと。正解がわからないからといって止まるのではなく、自ら進められるようなエンジニアに来て欲しいと思っています。