「型のない」課題にチームで挑む。ラクスルの“一人で悩まない“エンジニア組織づくり

近年、FinTechやEdTech、InsurTechなど既存の業界においてテクノロジーを活用する試みが広がっています。続々と「〇〇×Tech」が生まれる中で、あえてデジタル化がまだ進んでいない領域に挑むのが「ラクスル株式会社」です。

「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに掲げ、全国の印刷機の非稼働時間を活用し、高品質な印刷物を低単価で提供する印刷・広告のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」や、荷主と運送会社をオンラインで直接繋げるシェアリングプラットフォーム「ハコベル」など、業界の枠組みに囚われないサービスを展開しています。

印刷や物流といった伝統産業の“最先端”でデジタル化に取り組む同社。決まった正解のない課題に向き合うエンジニア組織をどのように構築してきたのでしょうか。取締役CTO兼「ハコベル」事業本部長を務める泉雄介さん、人事部の山本優子さんに同社のエンジニアの組織づくりについて話を伺いました。

既存の仕組みをデジタル化で変えるラクスルの挑戦

ーまずはラクスルの掲げるビジョンと事業について教えてください。

泉:
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンには、伝統的な産業の構造をテクノロジーによって変革し、社会にインパクトを与えたいという想いが込められています。

印刷業界と物流業界は、いずれもデジタル化が遅れているだけでなく寡占状態が続いています。「ラクスル」や「ハコベル」といったサービスを通じ、それまで下請けだった小さなプレイヤーが効率的に成果を上げ、適切な報酬を得られる仕組みをつくりたいですね。

ー印刷業界においては、どのようにデジタル化を進めているのでしょうか?

泉:
印刷業界では、紙の種類やサイズ、折り加工など、注文時に必要な情報がまったく統一されていませんでした。これまで一切データで管理が行われていなかったんです。

1種類の紙であっても、サイズや折り加工、印刷する工場の組み合わせによって、2000万レコードを超えるデータになります。私たちは、これらを種類ごとに分け、価格の整理、管理をする仕組みをゼロから作っています。

ー気が遠くなりますね…。物流業界ではどのような仕組みを作ろうとしているのでしょうか?

泉:
物流において重点的に取り組んでいるのは案件のデジタル化です。これにより、配送ルートの最適化を実現することができます。
これまで運送業者に配送をお願いする際は、ほぼ電話かFAXでやりとりがされていました。
案件の情報がデジタル化されることで業務効率を上がることはもちろんですが、蓄積していくデータを活用して、配送ルートの最適化、混載による案件の省力化が可能になってきます。
とある会社の案件情報をシミュレーションしてみた結果、荷量が多い地域では、稼働時間をおよそ35%削減できるという結果も出ています。そのやりとりをデジタル化することで、大幅に業務効率を高められる可能性があります。

誰も解いていない領域に挑む大変さとやりがい

ーいずれも解きがいのありそうな課題ですね。

泉:
そうですね。各業界の課題を切り出して、その都度最適な技術で解いていくようにしています。例えば、印刷周りのデータはバイナリで出力しメモリにダンプする方がデータとして扱いやすいのでRubyではなくGoを使う、配送のルーティング計算にはJavaのライブラリを用いるなど、幅広い技術を取り入れています。

ーこれまでエンジニアとして成果を実感できた瞬間はありましたか?

泉:
これまで、トラックを必要としている荷主が運送業者を探すのに数時間かかっていたのがわずか数分で見つけられるようになった、という声を聞くと、非常に嬉しく思います。業界の課題を少しずつ解決している感はありますね。
また、印刷では1つのプレートに1種類の原稿をプレスして印刷することもできますが、用紙やインクが同じであれば、種類の異なる原稿を組み合わせてコストをダウンする手法があります。この最適化を仕組化して、内部のオペレーションを省力化して印刷工場に渡すことが出来た時なども嬉しいですね。
説明してわかる通り、両業界とも既存の仕組みがそれなりに複雑で、これまでデジタル化に誰も取り組んでこなかった大変さはありますが、誰も解いたことのない課題にチャレンジできるのはこの上なく楽しいですね。

「型がない」課題にはチームで。ラクスルの“一人で悩まない”仕組み

ー前例のない課題を解けるエンジニア組織をどのように作ってきたのでしょうか?

泉:
他の会社に比べ、コードを書く前の議論に時間を割いていると思います。例えば混載のような独自の仕組みをどうデータ上で扱うか、シニアアーキテクトやGoogleの現役エンジニアの技術顧問を呼び徹底的に話し合います。そのやりとりを介して、ビジネスへの理解を互いに深まっていきます。

例えば、「ハコベル」なら地下に入って圏外になるケースも頻繁に起きるので、オフラインを前提に設計をしないといけません。こういった懸念点を事前に洗い出すためにも実際のユースケースを想定し、十分な議論を行うようにしています。

ー「常時オンライン」を前提に設計しては使うことができない、ということですね。IT業界の「当たり前」を疑う姿勢が求められそうです。

泉:
毎回新しい発見がありますね。だからこそ、課題に対して1人で悩まない状況をつくるように心がけています。ペアプログラミングやモブプログラミングも頻繁に行ってますし、詰まっている箇所があれば、一旦ペアでやってもらいます。以前は、ロッカーが設置されていたスペースを、モブプログラミング用に改装しました。

特に新しく入社したメンバーにとっては、複雑なビジネスを理解し、開発に取りかかるまでには一定の時間が必要です。最初は3〜4人のプログラマーとグループで開発し、全体のコンテキストを理解した上で、徐々に担当する領域を決めています。この仕組みにしておくと、誰かが休んでも開発を続行できるので経営的にもプラスです。


(モブプログラミング用のスペース)

ーチームで支え合える仕組みがあるんですね。人事の山本さんからみて、ラクスルのカルチャー的な特徴はありますか?

山本:
「いいものを作る」というシンプルなゴールに向かって互いに率直にフィードバックする文化は特徴的ですね。上下関係に囚われず、指摘すべきことはしっかり伝えるというか。お互いに色々言いやすい空気はあります。

また行動規範にもある「リアリティ」が大切にされていると思います。「多分こうだろう」ではなくて、実際に目で見て検証を繰り返し、本当に現場に必要なものを作ることを大切にしているなと感じる場面がとても多いです。実際にハコベルでは配送を行うトラックに同乗し、その様子を中継していたメンバーもいます。

ーそれはすごいですね…!

泉:
技術を持っているからといって驕るのではなく、これをどう活かせるか考え抜けるチームでいたいですね。自分たちは何も知らないんだという姿勢を大切にしたいです。

本番で負けない。良質な失敗のできる組織づくり

ー今後、技術面で新たに取り組みたい領域はありますか?

泉:
現在は、Ruby on RailsでのAPI開発や、インターフェースの開発がメインの業務ですが、今後はデータにも注力していきたいですね。印刷業界、物流業界ともに、デジタル化が行われておらず、これまでデータが集まる仕組みがなかったので、データの活用については幅広い用途が考えられると思います。

例えばどの地域にどのようなチラシが配られたかが把握できれば、「どの地域で何が流行っているか」など、様々なトレンドが浮かび上がってくるはずです。

また、物流の領域でも、この時期はこの道路が混むから早めに近隣に動かそうとか、将来を予測して最適な動きを選べるかもしれません。こうしたデータ活用の実践を、3〜5年後には取りかかれるよう準備を進めていきたいですね。

ーそうした新たな取り組みも踏まえて、今後どのようなエンジニア組織を作っていきたいですか?

泉:
直近の課題だと、フロントエンド側の強化ですね。

「ラクスル」も「ハコベル」も、いかに現場の人が使いやすいインターフェースをデザインするかが重要です。例えば、「ハコベル」ならドライバーは荷物を持っているかハンドルを持っているかなので、両手が塞がっている前提でデザインしなければいけません。

そのため、今後もフロントで複雑な実装が必要になります。2年前ならHTMLとCSSのコーディングが中心でしたが、最近は、優秀なデザイナーの方も入社され、よりインターラクティブなUI/UXを設計することが多く、Vue.jsやReactでフロントを組めるチームをしっかり組織していかなければいけないと考えています。

ー技術面以外、カルチャー面で目指したい組織のあり方はありますか?

泉:
“良い失敗”のできる組織ですね。この言葉は「失敗のデザイン」という考え方で、いかに失敗を積み重ねられるかということを強く意識しています。
ラクスルでは、仮説を立てた後、プロトタイプを作って一度ちゃんと失敗する。そして再びプロトタイプを作り、もう一度失敗する。この工程を素早く繰り返し、本番では完璧なモノを生み出す組織を作りたいと思います。

これから一緒に働きたい人も、そうした“失敗”を恐れない人でしょうか?

泉:
そうですね。挑戦を恐れないこと、そしてやはりビジョンに共感してくれる人ですね。技術を磨きたくて来てくれるのも嬉しいですが、技術で会社を選んだ人は、技術を理由に去ってしまう可能性も高いと思います。冒頭に話したラクスルのビジョンを大切にできる人、弊社の取り組む課題領域にコミットしたい人と一緒に働けたら嬉しいですね。

ー本日はありがとうございました!